2011年度 カリキュラム@デジタルハリウッド大学院 2011年度 カリキュラム@デジタルハリウッド大学院

知財経営概論

日付
2011年10月25日 18:30~
場所
桑沢デザイン研究所
概要
知財の基礎と紛争の実際
受講生の感想

記:角田 健男

第38回 記 : 角田 健男

知財とは、デザインがもたらす製品の「感性(的)価値」を向上させる行為。
その業務に従事していた私にとって、意匠権(知財)は知っているようできちんと教育されていないもの。
自社ブランドの構築も含めて意匠権についての理解度を向上することは、
企業戦略としてのデザイン」をどう考えていくかと等しい内容。
まさにSTRAMD(戦略経営デザイン)である。

本日は弁理士である 金 展克 先生の講義。
弁理士(べんりし)とは、産業財産権等に関する業務を行うための国家資格者をさす。(ウィキペディアより)
過去何名かの弁理士と仕事をしたことがあるが、小難しい話になる傾向が強く、どんな講義をしていただけるのか
心配であったが、事例も交えた講義はわかりやすく、さすがSTRAMDの講師(陣)だと感心(?)しきりでした。
私を含め3名もの方がブロク作成に名乗りを挙げたことが、この講義内容を物語っているのではなでしょうか。

では講義内容に沿って。

テーマは「知財の基礎&紛争の実際」

■ 知財の基礎
知財とは知的財産の略であり、無体物についての権利義務の体系である。
日本のほとんどの法規は実態のある不動産がベース(の考え方)である。

法律体系としては、知的財産権法・知的所有権法・無体財産権法など幾つかの呼び方がある。
「特許」「意匠」「商標」「実用新案」「著作権」「不当競争」があり、
それぞれ、
産業政策を目的とした知財(特許庁所管)
特許・・・技術的創作に対して与えられる。審査主義。
意匠・・・物品のデザインに与えられる。審査主義。
商標・・・商品の識別標識に与えられる。審査主義。
実用新案・・・構造変更・組み合わせなどの「考案」。無審査主義。

文化振興を目的とした知財
著作権・・・文化的創作に与えられる相対的独占権(文化庁所管)

・主に権利取得されなかった技術・意匠・商標を救済するために利用される
不正競争・・・個別の競争行為を違法とする規制(経済産業省所管)

また、
・創作法・・・「特許」「意匠」「実用新案」「商標」
・標識法・・・「商標」「不当競争」
に大まかに分けられる。


□ 特許・・・技術的創作に対して与えられる。
・特許という名前の由来は、イギリスの産業革命時に、唯一渡航が許されたフランスの技師に対して
」別に技術を持った人間の渡航を「」す意味が起源。
・ことの発端はダビンチの発明。「苦労して発明した内容の保護」を求めたことが、最初の事例であろう。
特許が認められるのは「時間とともに自然に進歩してゆく技術レベル」を「飛躍的に進歩させる」事例。
・効果金額としてはとらえにくいが、オランダが特許を停止していた時期、外国投資が止まった事例がある。
「産業として利用できる技術であること」「客観的に新しいこと」「容易に創作できないこと」
必要とされ、無断で実施したものには差止請求・損害賠償請求が可能。
・出願から20年間の存続期間。登録までに4年程度がかかる場合もある。出願数は年間40万件。
・いくつかの要素での請求項(A+B+C+Dとからなる装置Xという)に対して
要素が欠けて(A+B+Eとからなる装置X’という)いれば権利の侵害にはならない。(※A~Eは発明特定事項)
・少ない発明特定事項で請求項を構築できるのが有効な特許である。

□ 意匠・・・物品のデザインに与えられる。
デザイン開発の促進するという産業政策目的
・物品のデザインであることが必要。そのため建築などの不動産のデザインは対象外となる。
量産物であること。」「客観的な「美しさ」を備えたものであること」「容易に創作できないこと」が必要。
無断で実施したものには差止請求・損害賠償請求が可能。
・権利範囲は登録意匠に「類似」する意匠まで及ぶ。(用途・機能と需要者の目線で判断)
・出願から20年間の存続期間。登録までに6~8ヶ月程度。出願数は年間4万件。(8割登録)
「著作物」との差異は「美的創造物として鑑賞し得る程度のものかどうか」
・テキスタイル(布地)のパターンも意匠登録されている。

□ 商標・・・商品の識別標識に与えられる。
商品の出所の混同を防止する(商品の識別標識)という競業秩序維持が目的であり、
開発投資の促進が目的ではない。
・「普通名称「的」ではないこと」「公序良俗に反しないこと」「国旗はNG」などがあり、
・「流通における商品の性質」と「商品の外観・呼称・観念・取引実情」の2面から判断される。
・登録から10年間有効であるが更新が可能で事実上、永久に権利が続けられる。ただし、「不使用取消制度」が
あり請求された場合は過去3年以内に使用した実績を権利者が照明する必要がある。
・出願は約12万件、登録までに約1年、登録率8割位
・商標公報として金 展克 先生の事務所“HeartRights:登録5128754”を提示。
・井上陽水氏 UNDER THE SUN の件についての事例・判例を紹介。

□ 著作権・・・文化的創作に与えられる相対的独占権。
文化創造に対する投資回収秩序。当初は商業的な利益をそれほど意識しなかった。
主観的な新規性・創造性でよいため、たまたま同じものを別々に創造することもある。
・「模倣」でなければ問題ない。客体の類似性・主体のアクセス可能性で証明が必要。
・存続期間が長く、実名の場合は著作権者の死亡翌年から、変名・無名の場合は最初の公表翌年から50年
映画の場合は最初の公表翌年から70年(戦時加算で最長10年5ヶ月の可能性もある)
・どの時点で著作権というかの感覚共有(シミュレーション。)
・実用品デザインは著作物にはならない。模倣対策には意匠権での権利保護が必要。
・(家具の)画集の出版では模倣保護されなく、Webでの公開は自殺行為に等しい。
・「絵」的なものは保護対象になるが「文字」的なものは保護対象から外れやすい
・ロゴタイプの創作については特別な注意が必要。(契約処理の重要性)

□ 不正競争・・・個別の競争行為を違法とする規制。
・商標的な規制
周知(割と有名)表示混同惹起行為
著名(とても有名)表示習用行為
・意匠的な規制
商品形態模倣行為(発売から3年)
・特許的+αな行為
営業秘密の不正取得、不正利用行為
・プログラム著作権に近い規制
技術的保護手段の無効化行為
・商標的な行為
ドメインネームの不正取得・利用行為
・公益的な規制
品質等誤認惹起行為
営業誹謗行為

権利取得されなかった技術・意匠・商標などを救済するために利用される。
・もとは外圧ベースで出来た法律。
・営業秘密として保護されるには「非公知性」「有用性」「秘密管理性」を満たすことが必要。

□ 損害賠償
・日本における損害賠償は与えられた損害を賠償する考え方で、懲罰的損害賠償の考え方ではない。
ただし
1.ライセンス料(約5%)相当額を損害してもかまわない。
2.利益額(=売上―変経―仕入値)を損害としてもかまわない。
3.単位数量当たりの利益額に侵害された数量を乗じた額を損害としてもかまわない。

・2.3.が特に高額で強力。このパターンでの算出が近年極めて多い。
・双眼鏡メーカーの事例をもとに判決事例まで説明。高利益商品に対する危険性は注意が必要。

■ 知財紛争の実際
・知財紛争の8~9割は「交渉」で終わる。
・特に日本は同業者間であればあまり訴えない風土である。
・事例「切りもちの特許侵害(訴訟)」「京都の京急バスの件(訴訟まで発展してはいない)」
・計上も4~600程度の民事事件になっている程度。
・企業間での「警告」は頻繁にやり取りされている。
・松下電器産業の特許は19万件以上(日本)
・東芝グループ名義の特許も約19万件
・トステム株式会社の意匠は約800件
・トヨタ自動車株式会社の商標は3000件以上
・大手企業は大量の知財を抱えている
・パッケージクロスライセンスなどのやりとりも盛ん。
・対処としてM&Aという対応も昨今見られる

■まとめ
・現代社会における状況
「R&D投資効率の低効率化(急激な高コスト化)」「技術開発のダウンサイジング化」「生み出す技術の近似化」
・業種毎の「差」が激化。
・多くの大企業の「特許武装」の過度な浸透。

・特許に対する投資効率の悪化
近年の企業知財トレンドは特許厳選志向。調査重視志向。
・効率を回復する手段を模索する必要性がある。

「ブランド化する底支え」「意匠の「登録率」」が特許がらみで注目されている。

個人的にはぜひ2回、3回とお話をお聞きしたい内容。
今後の企業戦略としての特許、どうあるべきか。
悩ましい問題かもしれません。


□ハートライツ商標意匠事務所(金 展克先生の事務所)
http://heartrights.jp/

□特許電子図書館
http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl
※興味がある方は上記ショートカットから
「商標」→「4.呼称検索」→「呼称1」にカタカナ表記で「ハートライツ」を入力、
一覧から「登録5128754」を選択いただければ、商標事例紹介と同様の内容をごらんいただけます。

余談ですが自分の名前で検索してみた結果、意匠権85件、特許4件。多いのか少ないのか…。

受講生の感想

記:大月 均

第38回 記 : 大月 均

“技術革新の促進”を目的とする「特許」や、“文化振興”を目的とする「著作権」など、人の創造的活動によって生み出される無体物の権利義務の体系と言える『知的財産』。

国内における代表的な事例としては、特許の帰属権利や発明対価が争点となった青色LED訴訟が真っ先に挙げられるかと思いますが、国内外を問わず、意匠を巡る企業間の抗争、著作権における存続期間の延長問題などなど、私たちを取り巻く様々なモノ・コトが、時にその渦中に巻き込まれて耳目を集めるケースも多いため、最近ではごく一部の人(≒広義でのクリエイター)や企業の活動に限定されたものではなく、私たち生活者にとっても実はとても身近な、広く関心が寄せられているテーマの一つではないでしょうか。

さて、そんな知財の世界、歴史を紐解いていくアプローチも非常に面白いのですが(ちなみに、特許のはじまりは発明家としても知られるレオナルド・ダ・ヴィンチが開発した農機具とされています)、ここでは企業における知財紛争の最新事情から読み取れる、これからの企業活動について考えてみたいと思います。

※今回の講義は、blog担当が3名います。講義の詳細については角田さんのエントリーをご覧下さい。

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企業活動において、知的財産は非常に重要なマネジメント対象となっていますが、それを裏付ける興味深い指標の一つに、企業の特許や意匠・商標の保有や出願の件数があります。
ざっと国内の状況だけ見ても、松下電器産業(現・パナソニック)名義の特許と東芝グループ名義の特許の件数はそれぞれ約19万件に及んでおり、トヨタ自動車名義の商標も3,000件を超えるほど…な状況にありますが、そもそもなぜこれほどの特許が必要となっているのでしょうか?
それは“スマートフォンやタブレット製品を巡るAppleとSamsungの紛争”からも窺い知れるように、製品・サービスや事業、場合によっては企業の存続をも左右する問題、であるからです。
(ちなみに、これは決して最先端のテクノロジーに限った話ではなく、例えば“餅に入れた切り込み”の特許について越後製菓と佐藤食品が争った事例などもあります。)

知財紛争は、時として巨額の訴訟や知財目当ての企業買収などにも発展するポテンシャル/リスクを抱えているため、企業の多くは専門のセクションを設けて多額の予算や人員をそこに割かざるを得ず、しかしながらそのような活動の大半は表面化すらせずに“交渉”という形で水面下でやりとりがなされているのが現実です。(知財紛争のうち、8~9割は交渉でカタをつけるそうです)
実際の現場では「企業Aが特許権侵害の警告を企業Bに発すると、企業Bは意匠権や商標権の侵害で企業Aに応酬する」といったようなことが日常茶飯事だということ。
これらは、大企業とのパワーバランスが取れない企業や個人にとって極めて不利/不公平なシチュエーションを生んでいる(知財がイノベーション創出のボトルネックにもなり得る)ことや、“パテント・トロール”(知財の怪物)や“パテント・マフィア”なる“知財を食いものにして特許権益を搾取しようとする組織”の暗躍を引き起こしていることなど、様々な問題の温床になっています。

こういった背景が、ますます企業を“知財を保有すること”へ突き動かし、競合もその動きに遅れを取らないように自社の隙間を埋める…といった“数の均衡”の偏重を強める構造に繋がっている訳ですが、それはつまり、“自分たちを守ってくれるはずの知財の力に自分たちが脅かされる状況”の維持継続に企業自身が一役買っている(=当事者として加担している)、という大変皮肉な結果を生んでいます。

私はこの話を伺いながら、国家間の核兵器保有の問題を想起しました。“技術革新の促進”や“文化振興”といった知財の本来の意味性はもはや薄れてしまい、「抑止力、公平性を確保・担保するという大義のもとに、(“核兵器”が“知財”に取って替わっただけで)同じことが繰り広げられるだけでは?」…と。

このような“過度な特許武装”が行き着く先は…想像に難くありません。

●R&D投資収益率の低効率化(高コスト化)
 ↓
●技術開発のダウンサイジング化
 ↓
(負のスパイラル)

+++

しかして、「ステイクホルダーへの価値の創出~提供のためのリソースの一部を“知財”と言う“脅威”に対して投じる」という本末転倒な状況から脱するべく、企業知財のトレンドは“特許厳選志向”(調査重視志向で効率を回復する手段を模索)に移り変わっているようです。そしてこのコンテクストにおいても、注目されているのはやはりブランドやデザインの力なのです。

ブランド力、デザイン力が経営にもたらすインパクトは言うまでもありませんが、それらが知財の観点からも重視され、「(一部の)企業活動がデザイン開発投資やブランド化~ブランド強化の方向にシフトしている」という紛れもない事実は、
私たち一人ひとりの生活や、社会・環境・経済のあらゆる面においての“GOOD”な世界の実現に向けた、変革の大事な一歩として、希望を見出すことができる流れだと感じます。

※なお、デザイン開発投資の増加と共に、“意匠の登録率”も上がっているそうで、それが(著作権問題のように)作り手や使い手、つまりは“「人」が不在の状況”を引き起こさないことを切に願うばかりです。

受講生の感想

記:小島 寛之

カテゴリー:知財経営概論
第38回 記 : 小島 寛之

今回は、1年を通したSTRAMD講義の中でも唯一の法律の分野、知的経営概論に関する内容でした。講師は実際の弁理士である金展克先生。概論だけあって知財の全体を俯瞰するもので初心者にもわかりやすい内容でした。
自分は、一エンジニアとして日常の仕事では、特許明細書を読み込んで、模倣品対策など立案する実務で知財を取り扱いますが、STRAMDに入ってから、デザインと知財に関わる1つの気付きがありましたので、それについて考えてみたいと思います。

 STARMDに入ってCIという存在を初めて知ってから身の回りにあるデザインやロゴやシンボルマークをよく注視して見るようになったのですが、ある時、通勤中すぐ横を通る元松下の電池工場の建屋の屋上の看板が、中国企業に変わっていることに気が付きました(松下の電池事業をその中国企業が買収。建屋の看板全部が買収した中国企業のロゴとシンボルマークに変わっていた)。よく見るとシンボルマークのデザインが、自社のブランドデザインに似ていることにびっくり!実は、自社のブランドデザインは最近大幅にリニューアルしたばかり。これから広告宣伝で大々的にPRしていく計画があったため、それを知っていた自分は相当焦りながら、問題のそのデザインマークを写真にとり、自社の知財部へ駈け込んで本事実を報告したのでした。すると担当の弁理士は言うには、「自社でも事前に調査した結果、問題ないだろう。また窓口の広告代理店との契約上で「他社が商標権を侵害していた場合は、契約先の広告代理店がその責任を負う」契約となっている」とのこと。もう少し会話していくと、「今回の自社ブランドデザインは50カ国以上で商標登録するため、費用は沢山かかる。」ということに少々びっくり。費用を聞くとは数千万。国際出願する際に、その国で自社製品を製造・使用する(物の流通範囲)ことを前提に国を絞っていく特許と違い、商標は、広報やマーケティング戦略上、国単位で見るよりヨーロッパ地域、アメリカ地域などの広範囲エリア(情報の流通範囲)で出願するだけに、どうしても出願する国の数に比例して費用が多くなると。もし商標権侵害で、他社から警告、民事訴訟などがあった場合、多額の侵害賠償と販売停止などの甚大な影響が及ぶだけに、①十分な商標権の事前調査と取得、②知財マインドの向上、③商標(ロゴやマーク)情報に常にアンテナを張っておく、などのことがいかに重要であるか、今回の経験で身にしみてわかった気がします。

STRAMDに入っていなかったら、科学技術領域において発明される特許だけの意識しかなかったかもしれません。今後はデザイン領域において考案される意匠や標章、著作権の知財意識も高めていきたいと思います。



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