2011年度 カリキュラム@デジタルハリウッド大学院 2011年度 カリキュラム@デジタルハリウッド大学院

サステナブル・デザイン1

日付
2011年06月14日 18:30~
場所
桑沢デザイン研究所
概要
エコデザイン:地球ひとつ分の許容量とバックキャスティング思考法
受講生の感想

記:角田 健男

第18回 記:角田 健男

STRAMDで受講できる講義はどれも魅力的である。
多彩な講師陣、充実したカリキュラムの中で、
今回の益田 文和先生の講義は、楽しみにしていたもののひとつ。
「サスティナブル(持続可能な)デザイン」とは何か?
メーカーのプロダクトデザイナーとして無視できないキーワード、その概要です。

ECO-DESIGN : Environmentally Conscious Design
ECO-DESIGNは造語。オランダの大学院生(1997年頃)がまとめたもの
日本での実態はEnvironmentally Conscious Design(環境に配慮・考慮したデザイン)であり、
環境の要因を設計段階に盛り込んだものである。
DfE(Design for the Environment)という概念が、通産省(現経済産業省)によってつかわれていた。
これはそもそもは工学用語であり、99%エンジニアが使用していたものを、スライドしてECO-Designとされ工学的に使われたため、世界とのズレが発生した。
定量的に負荷を計測し削減したものの意味とされている。
アメリカではECO-DESIGN=Design for Sustinability
無茶な開発、資源の無駄使いをしないという取り決めに対して使われる。

これらとは今回の話は違う
Sustinable design=Design for society(Social design)は
10年くらいの歴史を重ね世界的にオーサライズされた内容。

日本の伝統文化とデザインの差(日本は資源の乏しい国だが独自の文化が醸成された国)
人は生まれたところで暮らしたり、そこでモノつくりをしてきた。
その伝統文化はほとんどが江戸時代にできたもの。
衰退せず何百年、何十種類と持続してきたのは独自の文化であり、世界的にも珍しい。
それに比べるとデザインは1950年代に生まれた、ごく最近の現象である。

■鳥の巣:理想のものづくり
絹(蚕:動物)と麻(大麻:植物)は、日本の文化を語るキーになるモノ。縄文式土器の模様は大麻の縄目。
石見銀山(島根県)の建物は、すべて太陽と水をもとにつくられた。
ライフサイクルアセスメント(環境負担)という目線でみてもCo2排出ゼロである。
1853年ペリー提督らの黒船、浦賀へ来航から全てが変わった。以降150年間日本は世界と戦ってきた。
大戦後数年で復興できたのは過去の技術力(伝統文化)のおかげだが、
使われた材料は以前と違い世界から調達したものである。
鳥は何億年と巣を作っているが環境に対しての負荷はかけていない。
その場その環境で最適なデザインができている好例。

■希少金属の収奪・生産物と等量のゴミ
レアアースや水源を買い占めている企業の問題。携帯電話の事例をもとに環境破壊の説明。
作った等量の廃棄物が出る。それには売れなかったものも含む。
リサイクルは対処療法でしかなくさらにエネルギーを消費してしまう。
シーシュポスの岩(徒労を意味する)にたとえて説明。

■病んでいるのはわれわれ : 地球ではない。
地球環境問題は地球にとっての問題ではない。子供に地球が泣いている絵を描かせるのはナンセンスである。
病んでいるのはわれわれ人間である。資源枯渇の問題は人間の問題。地球上の生命体の危機は何度もあった。

■オイルピークの判明
オイルピーク(石油の減産・高騰などが始まる)は2006年に迎えていた。
現在は計画的にリスク削減をしている。その方策の一つとして原子力があった。
■セダムのメカニズム
セダム(半耐寒性多肉植物:屋上緑化に使用される)は条件が良いところに移動する植物。
一定以上の繁殖が進むと毒素を自ら出し枯れることで全体をまもっている。

■Factor20(20倍の環境効率)
富の不均衡な配分
2001年70億人を超えた人口はOECD(経済先進国:10億人)が資源の8割を使用。
残りの60億人が2割の資源を配分。

環境効率を高める一番シンプルな考え方
Efficency(環境係数)=Performance(得ることのできる利益)/Impact(地球環境に与える負荷)

Factor2:資源・エネルギー効率を半分にする(50%削減)
E=2P/I もしくは 2E=P/(I/2)

Factor4:資源・エネルギー効率を4分の1にする(75%削減)
4E=2P/(I/2)

デザインの(努力)目標は Factor20 ! (20分の1・95%削減)これがECO-DESIGNの基本である。

■環境効率に優れた日本の製品群・LED光源・ノンフロン冷蔵庫など
商品やの製造、輸送、販売、使用、廃棄、再利用までの各段階における環境負荷を評価してゆく、
ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment:LCA)という考え方が大切。
14~5年の間にエコデザインは確立された。
それらの項目はエネルギー消費の削減・省資源・4Rの推進・長寿命・エコマテリアル・サービス化に大分される。

□省エネルギー:日本の企業はWin(製造側)-Win(消費側)の関係を目指す。
JR新型車両(液晶が付いたもの)は内製化し97%リサイクル可能で重量を半減(=電力消費量半減)したもにになった。
→でも運賃はそのまま=儲けは大きいが投資もしている。
LED照明はFactor40?Factor60?Factor100かもしれない。
パイプ配管内部のスムーズ化による抵抗削減でポンプ効率の向上
携帯電話のソーラーパネル(鞄に入れてたら役に立たない)が技術的には完璧なもの。
→プロモーション的には優れている。防水性もあるが雨の日は発電しない。技術の矛盾はある。

□省資源
牛乳瓶のガラス半減→マスで考えた重量削減(運送費、労力の削減にもつながる)
浮かせて支える梱包パッケージ(シートではさむもの)はビューティフルデザインである。

□4Rの推進
良質な土が確保できなくなった陶磁器業界は10年かけてリサイクル技術を確立した。
→回収の問題はらでぃっしゅぼーやの協力で解決した(http://corporate.radishbo-ya.co.jp/social/retableware.html
埋め立てられる蛍光灯の水銀浄化技術を開発しリユースしたe-glass:松徳硝子株式会社(http://www.stglass.co.jp/products/e-glass/index.html

□長寿命
特殊マーケット(ヘビーデューティ品)トップシェアのノートパソコン(パナソニック製)の民生展開
→そのうち壊れるものはメーカーの陰謀。買い替え需要のスピードダウンはある。
要の部分に錆びない部品を使うことによる長寿命化したザ ペンチ:マルト長谷川製作所(http://www.keiba-tool.com/index2.htm

□エコマテリアル
T型フォードの材料はヘンプ(大麻)の葉と樹脂でつくられたパネルを構想していた。(石油化学系企業の圧力で断念)
木工芸の新しい展開

□サービス化
トレン太くんは料金(ユーザー)も環境にもやさしいビジネスモデル
ダスキンの100円レンタル掃除機は3年間(¥3,600)契約で、約1万円程度かけて購入する必要性をなくした結果60万本のヒット。(損益分岐点がキー)

■日本には選択肢がない・売れてしまう罠
徹底的に省エネを図られてきたにもかかわらずCo2が削減できていない現状の背景に電力消費量が半減した商品を3台買ってしまうことや、燃費の良い車でさらに距離を走ってしまう矛盾などがある。
缶コーヒーのパッケージは尊敬に値するEco-designであるし自販機についても最高にEco-designである。
それを組み合わせたビジネスは、年間400億本という売れすぎてしまう現象を生んでいる。
世界のミネラルウォーターの消費量は1,260億リットル。企業が水源を買い占め、本来地元にあるべき水を運んでしまっているている問題がある。

■バックキャスティング・地球ひとつ分の許容量・エネルギーシフト
この場所でできることをする・手に入るものを食べる、着る・つかうことを実現すればいい。
我々の価値観・ものの見方・暮らし方を変える事でいままでできなかった事がができるようになる。

今までは拡散方向に進んできた。この考え方に先はない。
→ナチュラルステップ(http://www.tnsij.org/)の提唱したロート型(地球1個分の許容量)の考え方だと、
全世界が日米同等の生活をすると5.5~7.5個の地球が必要である。

日本は1/10以下にすることが必要であり、その行為はかなり日本的で美しいこと。それを実現するのはデザイン以外にはない。
徹底的にエネルギー消費を抑えこんで、気持ちよい社会をつくることがまさに社会のデザインである。

■垂直農法(ヴァーティカル・ファーミング)・ハン博士の4段階の改革
1993年イタリアの国際会議で報告した内容は大ブーイング、美しいファサードを台無しにすると建築家。現在は各国が真剣に検討している状況。
耕地としてのポテンシャルは垂直面で考えると驚くほど大きくなり、地産・地消が実現できる。
社会をどうデザインするかに取り組み、個別のデザインをチューニングすることでよいものにすることが必要。
日本の知恵と技術で解決したものは地球レベルで活用できるシステムとなる。ぜひアジア圏と協働でやりたい。

第一回のレポートですが新たに加筆します、
計2回の講義を終えた後の受講生は、今までさまざまな講師から得られた情報が一つのストーリーとしてまとまり始め、
充足した非常に良い講義でした。残念ながら益田先生の講義は2回で終了となりますが
機会があればぜひお話をお聞きしたいと思います。

(2011.6.23 記)

《STRAMD》

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